①の続きです。
・8章 シン18.5歳、ジャ14.5歳
すごい空気悪いところからスタート。
ジャ、ずっと怒っている。拗ねてるっぽい。こんなジャを見るのは初めて。マスルールにもすごく冷たい。ヒナホホとドラコには努めて普通にしようとしてるけど、いらいらしてるのが分かる。
マスルール、冷たい目。何も言わない。シン、間を取りなし、仲良くやろうぜっていうけど、きかない。そのくせ、二人とも強いんだからもう。
シン、マスが離れたスキにちょっとジャと会話。どっちかっていうと問題はこっち。マスに対する態度を咎めると、ジャ、ほっといてって。口論、ちょっと喧嘩。自分でも時分の感情をもてあましているよう。でも、シンもまだ子供だから、イラっとしちゃう。
ぱぁん。
頬をはたいてしまった。ジャ、目を見開き、すぅ、と瞳を凍らせる。シン、慌てるが、ジャ、あたまひやしてきます、と気配を消してどこかでいってしまう。こうなったらシンでも後を追えない。溜息。
マス、空気読んで終わったころ出てくる。無言だが責められるような気がした。オレ、いない方がよかった? と言われ、シン、慌てて首を横に振る。俺の手はふたつあるんだ、お前らふたりくらい抱えられるよって。ヒナホホに人気者は大変だなって気遣われる。せきにんを持て、とも。ああ、分かってるさ。
(手を放すつもりなんて、さらさらない)
ジャーファルは、かわいい。大切だ。しあわせになってほしい、しあわせにしたい。放してなんかやらない。でも、この気持ちをどうやって伝えたらいいんだろう。女なら抱けるし、甘い言葉を囁かれる。でもあの子はそれじゃだめだ。
考えているうちに寝てしまい、微妙なまま一夜が明け、翌朝。出発になったらジャ、戻ってきた。進む、けど、微妙。やりづらい。でも強い。モンスターも前のより強い。難易度あがってる。
ぼろぼろになりながら、おそらく最後のトラップ。バアルを使っても壊せなさそうな堅牢な扉と、四個のスイッチ。三個は同じデザイン、一個だけ高いところにあるのはやたら豪華。ジャ、一番身軽な自分があそこに行く、タイミングそろえないと罠が発動する、て。
その言葉を信じ、スイッチを押す。途端、ジャの行った場所だけやりがふってくる。ジャそれを見越したように回避。でも、避けきれないいくつかを受ける。
「ジャーファル!!」
「っ、進んでください! 私は大丈夫です!!」
彼の両足には深々と鏃が突き刺さっている。白い肌を赤い血が鮮やかに濡らしていた。あれではもう歩けまい。彼は始めから、自分を犠牲にするつもりだったのだ。
「くそおおお!!!」
ついさっき潜ったばかりの閉り始めている扉へ、シンドバッドは全速力で駆け出す。あの子を置いてなんて行けるはずがない。彼を犠牲にしてまで迷宮を攻略したくなんてない。自分は確かに、力と富を欲した。でもそれは、彼を幸せにしたかったから。その彼がいないんじゃ、なんの意味もない。
「シンドバッド! っ、たく!」
「……」
ヒナホホ、マスルールが無言で続き、両開きの戸を押さえてくれた。だが、彼らの腕力を持ってしても、閉じようとする力を完全には止められない。シンドバッドは全ての力を足に込め、ジャーファルの元へと走った。
「ジャーファル!」
「ッ、馬鹿! なんで…!」
「馬鹿はどっちだ!!」
怒鳴り返し、細い体を担ぎあげる。昔のように易々とはいかなかったが、それでもまだ持ち上げることができた。全力疾走で悲鳴を上げる肺と筋肉を叱咤し、シンドバッドはもう僅かしか隙間のない、宝物庫へと続く扉へと突っ込む。ジャーファルをきつくきつく抱き締めて。
「! おい、上だ!!」
ヒナホホの声とほぼ同時に、頭上に生き物の気配を感じた。それはシンドバッド達を散々に苦しめてくれたあの迷宮生物だった。
巨大な蛇はあんぐりと口を開け、二人を頭から呑み込もうとする。急には留まれないし、腕にはジャーファルを抱えているから抜刀もできない。そもそも構えが間に合わない。
――死ぬ。
ぎゅう、と養い子の頭を抱き締める。考えての行動ではない、もはや反射だ。せめてこの子だけは生き延びて欲しい。悪意に晒され続けた子供は、ようやく笑うことを覚え、世界の素晴らしさに気付き始めたのに、ここで終わるだなんて非情すぎる。たとえ神が許しても、シンドバッドが認めない。
「シン――!!!」
その瞬間、光が弾けた。
ジャーファルから産まれる、光の蛇。いかずち。バアルノ魔力をかんじた。やきつくす。呆然。
「早くしろ!」
ヒナにドナラレ、シン、慌ててすべりこみ、セーフ。ぜいぜいしながら、とりあえずジャーファルの怪我の様子を見る。気絶してる。両足ひどい。でも、命はへいきそう
さっきのは、一体。分からない。でも、こいつ、魔法使えないはずだし。それにあれ、●から出てた。
ヒナ、手当を手伝いながら、本人に訊けばいいだろう。うん、そうだな。パチパチ頬を叩けば、めがあいた。気を利かせてみな、ちょっと距離をとってくれた。
シン、手当てしながら怒る。お前、わざと自分が上に行っただろ。…さあ。金輪際、二度とするな。…だって、私はもう、いらないんでしょう?は?!
シン、昨日のマスルールとのやりとりを思い出す。もしかして、ジャも、シンの懐には一人しか入れないって思ってる?
そう考えると納得がいく。あれは、拗ね。いわゆるエディプス・コンプレックスか! そう思うとおかしくなった。かわいいじゃないか。同時に、申し訳なくなった。確かに、街に着いてからの自分は保護者とは言い難い。外の世界に連れ出したくせに、中途半端に与えて、満足して。ようやく外の世界に出てきたばかりのジャには、さぞかし心細かっただろう。そこに自分を追い出すかもしれないやつ(マス)がきたら。
(こわい、よな)
シン、ちいさいころを思い出す。母の妊娠が分かって、大喜びして。うれしいけど、ちょっと怖かった。家族の喜びようがすごくて、自分は用なしになっちゃうんじゃないかって。妹がかわいすぎてぜんぶふっとんだけど。
シン、ジャを探しに行く。見つけて、捕獲して、抱きしめる。言い聞かせる。俺の手はいっぱいあるんだ、お前を話したりしないよって。ジャ、暴れたけど受け入れてくれた。
「だいじょうぶ」「おれにはジャが必要だ」
ジャ、マスにごめんなさいする。マス、全然気にした様子はない。大物だ。シン、二人の頭をわしわしと撫で、ジャをおにいさん、マスを弟に任命する。ジャはおにいさんなんだからマスを守ってあげないといけないし、マスは弟だからおにいちゃんの言うことを聞くんだぞ。
シン、守る、ということばをあえて使った。以前ジャが大変になっちゃった戒め(砂漠の街)。でも、今のジャなら分かるはず。つかみきれないとしても、マスは強いから、よほどのことがない限りはだいじょうぶだろう。
よかったな、家族が増えたぞ。アンタねぇ。シンを真ん中にして、四人でくっついて眠った。あったかくて、しあわせだった。
翌日、ジャはヒナホホに背負われて迷宮攻略完了。ジンは笑って四人に祝福をくれた。
--------------------------------------------------------------------------------
・9章 シン19.5歳、ジャ15.5歳
シンが船に乗ってバルバッドへ着くところからスタート。
(もうすぐ、会える)
あそこにはジャが、仲間達が待っている。一年ぶり。
レームのダンジョン(ゼパル)を攻略し、一度報告にためにバルバッドへ戻ったが、そこで予想外の事態が起きた。魔力の暴走。競合する三つの金属器の力を抑えきれなくなったから。
闘技場で出会った不思議な人と、バルバッド王の助言もあり、シンは一人でレームへ逆戻り。一年かけてシンが魔力操作を覚えている間、シンとジャ以外はバルバッドで情報収集しながら傭兵続行。ヒナは家庭があるのでイムチャックとバルバッドの往復。
ふねがつく。たくさんの出迎え、その中にジャの姿も。すぐみつけられた。背が伸びた。やわらかさがだいぶきえた。でも雀斑も可愛い顔も相変わらず。そして、自分を潤んだまなざしでみてくるところも!
(だめだよ、ジャーファル)
彼はまだ錯覚に気付いていない。今の自分は飢えているから、勘違いしてしまいそうだ。慎重にならないと。
「おかえりなさい、シン」
でも、見違えるように大人びたジャーファルの、前と変わらぬ声と笑顔を見たらいろいろふっとんで、シン、抱き着く。涙ぐむ。ジャ、くるしって。シン、ぎゅうぎゅうしてから他のみんなにもだきつく。さびしんぼ。
借りている家まで歩きながら、近況報告。ジャはシン父の推薦もあり、シン実家にいた食客と同門の政治学者に師事していた。たまたま交易でバルバッドに来ていた父が、将来、息子を補佐するから、と、頭を下げてくれたらしい。その学者は王宮にも出入りしていおり、ジャーファルをびしばしきたえているらしい。
力や技はマスルールにヒナホホ殿やドラコーン殿がいます。だから私は、違う面であなたを支えたい。そんな健気なことを言うジャーファルに胸が熱くなる。かわいい。きゅん。
(何だ、いまのきゅん、は)
前よりも明らかになった、女に抱くのと似たような感情に戸惑うシン。いやでも肉欲じゃないから、ひさびさに会えてうれしいからだと自分をだます。
その晩、宴。距離を埋めて、とにかく話して。床に就いたのは明け方。
「おやすみなさい、シン」と、額にキス。こどもだましだけど、すごいどきっとしてしまった。
★ジャとえっちする夢をみてへこむシン★
しかし、すぐにそんな平穏は打ち砕かれた。
バルバッド王が知らせてくれた、シンの故郷の危機。しかもその影にきなくさいにおい。慌てて帰国すると、離れていた一年半ほどの間に、故郷は悪い方向へ様変わりしていた。
生彩をかいだ町。荒んだ人々。高い物価、徘徊する浮浪者。あの愛した、ちいさくてうつくしい国の面影はない。
絶望しながらも実家へ。そこは前と変わらなくて、涙が出そうだった。出迎えてくれた母を抱き締めるシン。で、中に入って父に遭う。すごい老けこんでいて驚いた。
国王の急死。隣国の介入、政治が崩壊。暴動、略奪。しかし新しい王(先王の息子)は国民の前に出てこない。荒れる町。
「父上は、王を止めないのですか。むりやりにでも。いっそ父上が」
「私はその立場にはない」
詰め寄るシンを宥め、父、あくまでも一国民の立場を貫く。新しい王はあきらかに公平ではなく、父を嫌っていて、財産を没収し、謂れのない中傷をして、事業を縮小させた。もはやこどものいじわるレベル。しかもシンのことでももめてる。金属器を持つシンは、大量破壊兵器としてみられてる。
シン、亡命すら勧める。でも父は首を縦に振らない。町を暗雲が覆う。パルテピアの時と同じような嫌な予感が日増しに強くなる。
ある日の朝、幾度目かも分からないが王を諌めようと王宮に向かう父。しかし、坂道を登ってゆく背中が、シンが父を見た最後だった。
そして夜明け前、街が焼かれた。まるで示し合わせたようんなレーム帝国の侵略。シンは確かに、何者かの悪意を感じた。
逃げる人々を逃さないかのように、あちこちで地割れ、地震。そういう土地じゃないのに。多分、敵に金属器使いがいる。明らかに人知を超えた破壊力。シンも金属器で応戦。でも一人では全員を守り切れない。シンの言うことを皆聞いてくれない。無力さに歯噛む。
(力だけでもだめで、権力だけでもだめだなんて!)
大混乱する町。飛んできた矢が頬を掠め、バアルが宿ったイヤリングが壊れる。すごく嫌な予感。「父上…?!」「シンドバッド、今は自分と、ここにいる人間を逃がすのが先だ!」
ヒナドラに叱咤され、シン、壊れたイヤリングを懐にしまって駆け出す。助けられる限りを助けてゆくが、いつもいる銀髪がない。
「ジャーファルは?!」「見てない」「あいつ、まさか、独りで城へ?!」
ジャーファルと父を見捨てるかどうかの判断を迫られるシン。ぎりぎりしていると、炎をかいくぐってぼろぼろのジャ、戻って来る。泣いていた。生理的なもの以外ははじめて見た、この子の涙。
「ジャーファル!?」
「シン。お父上は、もう、戻ってきません。あなたに、これを、と」
手渡されるペンダントと、髪のひと房。絶望。でも、倒れている暇なんてない。
シン、乗せるだけの人々を乗せて、命からがら町を脱出する。父は王宮へ上がる前に、詰める限りの財産と、水、食料を船に積み、いつでも出航できるようにしておいた。予感があったのだろう。それでも、助けられたのは部下とその家族を中心に、数十名だけ。
ジャから父の最後の言葉を告げられる。衝撃。誰もが啜り泣き。しかしその中で、父の腹心だった男に、シンに「リーダーになれ」と言う。
急に圧し掛かって来た重石。皆のすがるような目。だめ、ささえきれない。俺はそんな器じゃない! だって父一人守れなかった! なんで、俺はふさわしくない!何もできなかった!
でも、おまえはあの人の息子だから。そういう希望が今は必要なんだ、と言われ、沈んだみなの目を見たら、頷くしかない。
とりあえず国から離れる。行先は決まらない、そして夜がきた。静かな夜だった。静かすぎる夜だった。
聞こえてくるのは潮騒と、いたずらな風が時折駆け抜けてゆく音だけ。波でゆらゆらと船が揺れ、まるで雲の上を歩いているようだ。
現実感が、ない。だから全てが嘘だと、夢ではないかと思ってしまう。誰もいない看板にへたり込んだシンドバッドは、ぼんやりと、真っ暗な空を見上げた。分厚い雲に覆われた闇の帳には、輝きがひとつもない。これではどちらに進めばいいのか分からない。
『シンドバッド。迷ったらまず、冬はオリオン、夏はベガを探しなさい。星は動かない。こっちが見間違えなければ、ちゃんと行きたい方へ導いてくれる』
「父さん」
いつだって導になってくれた、もう会えない人を呼ぶ。何故あんなことになってしまったのか。どうして、助けられなかったのか。自分はいつだって、本当に大切な人を救えない。
分からなくなってしまった。どうしたいのか、どうすればいいのか。
「父、さん…! 星なんて、見えない!!」
ジャが出てくる。そして、いつかシンがしてやったように、頭を撫でてくれた。シン、ちいさな体にしがみ付いて、ひたすらに泣いた。
★ここは別だしで
ジャーファル、一人で王宮に忍び込む。そこで見たのは、拷問され、今にも果てようとしているシンの父だった。父、ブローチをジャーファルに託す。これを息子に、と。ジャーファル、受け取り、父親と共に逃げようとしたが、とても動かせない。
とても苦しそうな父に、ジャーファル、いう。痛みを感じさせずに、殺してあげることができます。シン父、首を横に振る。君の手を汚す必要はないよ。一人で逝ける。ああ、でも、手を握ってくれるかな。さびしいんだ。その笑顔は驚くほどシンに似ていた。
ジャーファルに看取られて、シン父、逝く。ジャーファル、物ごころついてはじめて、泣いた。
--------------------------------------------------------------------------------
・10章 シン19.5歳、ジャ15.5歳
そうして「国持たぬ民」、難民になったシン達。受け入け入れ先が見つからず、所属する国=身分の証明がないため、港への停泊すらなかなか許されない。シンドバッドの知り合いや父の知己に頼んで、海上で積み荷を分けてもらったりしてなんとかしのいだ。
知己にきいたウワサ。またダンジョンが出たって。ダンジョン攻略者のアンタとなら、って話も出たけど、この状態じゃあな。うん。(もう何もかも放り出して、逃げ出したい)(でも、できない。みんなは家族)
皆が船上生活に慣れていたのは幸いだが、狭い場所にずっと閉じ込められているので、どうしてもいさかいが起こりやすい。空気はどんどん悪くなる。じりじりと減ってゆく食料と水。脱出の時の怪我や、持病、老衰で、死者が何人も出た。
病床で今にも息絶えそうな老婆に「国をください」と言われ、絶望。それはどうがんばってもあたえてやれない。困るシンに、老婆はやさしく、あなたが王様だったらよかったのにね、て。その口はもう、二度と動かなかった。
辛かった。そんな漂流を一月近くしたある日、救いの手が差し伸べられた。イムチャック。ヒナホホがかなり自分の立場を危うくし、受け入れてくれたらしい。イムチャック王自体は三つの金属器を持つシンを危険視しているようだけど、それは王として正しい。彼は彼の国の民の命を預かっているのだから。どうであれ、ありがたい。頭上がらない。感謝。
イムチャック。借りている館の屋上から、故郷とは似ても似つかない雪景色を見下ろし、シンぼんやりする。今日は雪降ってない。空、すごいきれい。
いえいえのつつましやかなあかり。人の暮らしがある。王が守っているから、平和。でも、賢君に恵まれる国は世界に意外と少なくて、平穏を壊そうとしている悪い奴ら(アル・サーメン)もいて。ゆるせないし、いやだ。自分は何をしたらいいのだろう、何ができるのだろう。何を、したいのだろう。
父の言葉を思い出す。星をさがせ、と。シンは己に問い掛ける。なにをしたいのか。導なき旅路は迷う。明確なビジョンが必要。
――自分たちを受け入れてくれる国がないのならば、作ってしまえばいい。もう二度と、戦によって泣くものがいないように。
――国持たぬ民と、民なき国。そのどちらも、作ってはならない。
シン、決意する。国を作ると。そうしていると、ジャの気配。
「体を壊しますよ。中に」
「いい夜だから、もうちょっと」
そう答えると、上着をかけられる。相変わらず準備がいい。横に立ち、同じように空をみあげて。
「なあ、ジャーファル。おれ、国を作ろうと思うんだ」
「……それ、本気でいってるんですか?」「ああ」
さっきの決意を語る。誰も傷付かなくていい、理想の国を。今の王には強さが必要、自分には金属器がある。王様の知り合いもいっぱいいる。きっとなんとかなる、してみせる。
「本気、なんですね」
「ああ。でも、無謀だというのは分かってる。だからお前の命はもう、お前に返すよ」
ずっと言おうと思っていたことを、言った。
そばにいてくれた、大切な存在。手放す覚悟をして初めて気付いた。自分はやっぱりそういう意味で、彼が好きだった。親愛も友情もすべてひっくるめて彼がほしかったし、彼にももとめてほしかった。傲慢だ。
でも、すきだからこそ、手放さなくては。ここから先は茨の道。必ず傷付く。志半ばで果てるかもしれない。つれてゆけない。手を出す前でよかった。そしたら離れ難くなってしまう。
ジャ、震える声で。いやです、と。
「私の命は、ずっとシンのもの。シンのもので、いたいんです」
「その上で問うぞ。お前、俺についてくるか?」
ジャ、シンのむなぐらつかんで「私が、あなたなしで生きてけるとおもってんですか?! あんたしかいないのに! あんたがすべてなのに!! いらないんだったら、殺せよ!」
「ジャーファル。よく考えなさい。お前を傷付けたくないんだ。大切だから」
「今更です」
「お前はもっと、幸せになれるよ」
「シンからもらう幸せじゃなきゃ、いらない」
ジャ、膝を突く。どこかの王宮で見た、臣下の礼。
「私の主は、あなたです。シンドバッド王。全てを捧げます、命も、心も、魂の一欠けらも残さず、なにもかもあなたに」
「……許そう」
ジャ、満足そうに微笑んだ。立ち上がり、懐から小さな包み取りだす。
「お父上から贈られた物よりは、劣りますけど」
耳が重くなる。目を動かすと、そこには壊れたはずの金色の輪がぶら下がっていた。両耳を飾り付けたジャーファルは、満足そうに何度も頷く。
「今の私があなたに差し上げられるのは、この身の全てと、それくらいですが。もっと役に立って見せます。隣で、なんて我儘はいいませんから、どうか近くで同じ夢…ううん、夢が叶う瞬間を、見せて」
手を伸ばし、いくつになっても線の細い体を捕まえる。大人しく腕の中に収まってくれた彼は、漆黒の瞳にきらきらしく強い光を放つ星を宿していた。
「ジャー、ファル」
「いいんじゃないですか。国、作りましょうよ。あんた、派手好きですし、派手な顔してますし、実際、派手なものが似合いますからね。その頭にきんいろの王冠、似合うと思いますよ」
感極まってジャを抱き締める。
「じゃあ、告白ついでにもういっこ。好きだよ、ジャーファル」
ぱちり。はあ、どうも。あ、わかってない。
シン、細い顎をくいともちあげて、口づける。目をみひらいたけど気にしない。触れるだけでゆっくりと離し、もう一度、誰にも使ったことのないような低くて甘い声で。
「こういう意味で、だ。好きだ」
「!!!??」
逃げようとする体を抱きしめて。
「お前が可愛くって仕方なくてなぁ。最初は気の迷いだと思おうとしたんだが、無理だった。お前の全部を、俺のものにしてしまいんだ。さっきお許しもでたことだし」
「ち、ちが、そういういみじゃなくて」
「ジャーファル。嫌か?」
「…いやじゃ、ないです。あなたにあたえられるなら、痛みだって喜びですから。どうぞ御心のままに、わが王」
「んー、嬉しいけど、そうじゃなくて。俺が何を欲してるか、お前なら分かるよな?」
「…すき、ですよ!」
ヤケクソ気味に抱きしめられる。うれしくって笑いながらだきしめかえして、キスをして。最初はあさく、だんだんとふかく。
(俺は、欲しいものはぜんぶ、手に入れるよ)
強欲と言われようとも。国も、ジャも、夢も。もう迷わない。きっとこの力はそのためのもの。くもをはらい、星を目指して歩み続けるための力。
********
現在に戻って。星はここにある、消えても、隠れても、ずっと探し続ける。朝だって昼だって星が出てるって、今の自分はしっている。だからたとえ、今日がくもっていても、なにもみえなくても、歩き続ける。星を、めざすべきところをさがして。彼と一緒に。
「シン?」
ずっと一緒にいてくれくれた。沢山のものを手放したけど、この子だけははなしたくない。ゆいいつのしるべ。大切にしよう。
いちゃいちゃしてアッー!でおわり!
PR
ブログ内検索
メールフォームについて
1000文字程度まで送信できます。足りない場合や上手く送れない場合は、お手数ですが h_koremori★yahoo.co.jp までメールをお願いいたします。