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ランロイ長編です。多分10話ちょいになります。
零の終章の事件解決から三ヶ月後~半年後くらいを全力で妄想してます。苦手な方はスルーおねがいします。碧と絶対矛盾が出るとは思いますが、ほとばしるパッションのままに書きたいと思います!
二人はくっついてません。自覚もほんのりとしかしてません。くっつくのは最後です。


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 聳え立つ建物の間から覗く空は抜けるように青く、陽は地上を等しく照らしている。白い雲は悠然と流れ、風はやわらかく、また、水の匂いを含んでいた。雨の気配ではなく、湖が近いせいだ。
 弾けるような笑い声がすぐ近くで聞こえ、天を仰いでいたロイドは顔を巡らせた。見れば、子供達が公園で追い掛けっこをしている。歓声を上げて駆け回る幼児らを、少し離れた所から親がやさしい目で見守っていた。どこにでもある、平和な街の光景である。だが、クロスベルは一度、その「どこにでもある光景」を失いかけた。つい最近のことだ。
 D∴G教団による暴動を制圧してから、既に三ヶ月が経っている。クロスベルは表向きこそ落ち着きを取り戻しているが、皮を捲れば崩壊寸前の屋台骨が見えてしまう状態だ。
 マルコーニの保持していた青い錠剤の顧客リストを元に、一課が捜査を行ったところ、帝国派の議員を中心に多くの逮捕者が出た。ルバーチェと繋がりを持っていた警察や警備隊の上層部は、示し合せたかのように一斉に退職、もしくは長期療養に入っている。加えて、薬の後遺症で多くの警備隊員が入院を余儀なくされ、クロスベルの守りは今、非常に薄い。
 また、失ったものは力だけではない。政府組織の上層部の汚職が露呈し、市民の信頼も失墜した。せめて厳罰を与えられれば感情も違っただろうが、抜け道がいくらでもあるクロスベルの法律では大した罪には問えず、外国に亡命した者を追う余力もない。膿を出しても出し切った訳ではなく、そもそもの歪みは治っていない。
 この州は、ありとあらゆる要素が複雑に絡み合い、絶妙とも言えるバランスで成り立っていた。だが、事件により黄金律は崩れかけている。議会は帝国派が激減し、共和国派が台頭しようとしている。諸外国からの表だった干渉はないが、気を抜ける状態ではない。何事もなかったかのように活動を続けている黒月から目は放せないし、猟兵の動きが活発になっているという情報もある。どこかから、何かが、少しでも飛び出したら、危うい均衡などすぐに壊れてしまうだろう。そして、二度目の混乱を乗り切る力は、ロイド達にはない。
 だから、祈るしかない。日々が平穏で、人々の暮らしが健やかであることを。少なくとも警備隊の機能が回復するまでは、事件など起きないことを。
 けれども、ロイドは知っている。祈るだけでは何も変わらない。女神を否定するつもりはないが、人の世を変えるのは人でしかないのだ。神の慈悲深さは心の支えとなり、時に背中を押してくれるが、直接的な奇跡を起こしてくれはしない。だから、待っているだけでは駄目だ。何かを望むのならば、自ら動かねばならない。
(俺の願いは…みんなが平和に暮らせることだ)
仲間が、友人が、その大切な人々が笑っていられる街。誰もが笑顔で挨拶を交わし、帰るべき家、あたたかな食事とベッドがあるといい。理想でしかないと理解しているが、少しくらい夢を見たっていいだろう。
 実現させる為に何をすればいいのかはまだよく見えていないが、ロイドが悩んでいる間にも、支援要請はどんどん寄せられて来る。立ち止まっている暇はない。だから難しく考えるのは止めて、今の自分にできることを、全力でやろうと心に決めた。今も予定より早く支援要請を終え、旧市街からパトロールがてら、湾岸地区を経由して支援課へ戻る途中だ。今日はロイドとランディはそれぞれ別の場所での軽作業、エリィとティオは市庁舎の事務の手伝いに駆り出されている。時刻はまだ午後のティータイムくらいの時間だった。
 新聞社の前に差し掛かると、IBCへ続く長い坂道が目に入る。敷き詰められた石畳には、割れや焦げなど籠城戦の痕がまだ残っていて、喚起される記憶にロイドは眉を潜めた。あの夜は全てが綱渡りだった。一歩間違えば自分や仲間の誰かが命を落としていただろう。三ヶ月経った今も、思い出してはぞっとする時がある。だが、道行く者達は、見慣れてしまったのか特に気にする様子はない。それはきっと、彼らが真相を知らないからだ。
 一連の事件は、表向きはマフィアと手を組んだ警備隊の一部によるクーデターという形で公表されている。警備隊が警察や市庁舎を襲う姿があまりにも多くの市民に目撃されているため、そうせざるを得なかった。住民達は、ヨアヒム・ギュンターという聖ウルスラ病院の医師が消えたのは、郷里に帰ったためだと信じているし、女神を否定する異端者がいるなどとは露にも思っていない。
 暴動に加わった者の多くは操られていたのだと周知するために、警察は青い錠剤の存在を発表し、その危険性を説いている。だが、D∴G教団については徹底的な情報統制が行われており、知るのは警察と警備隊の上層部だけだ。
 隠蔽や偽装、不正はロイドが最も嫌うものだ。だが、今回はこれでいいのかもしれない。真実は大事だが、この状況で教団やヨアヒムのことが知れたら、住民達は不安になるだろう。怯えや恐怖は人を思いもよらない行動に走らせる。只でさえ現在のクロスベルは不安定なのに、火種を投げ入れたくはない。
 どうしても沈みがちな己の思考を散らすように、軽く頭を振る。警察の中では市民と一番距離の近い支援課の自分が、暗い顔をしてはいけない。きゅう、とグローブを嵌めた手を握り、ロイドは気合を入れた。
(大丈夫。悪いことばかりのはずがない。これからきっと、いい方向へ向かっていく)
 痛みは確かに大きかったが、障害物が減り、風通しがよくなった市の骨格には、新しい風が吹き始めている。もうすぐ行われる市長選、その後に続く議員の欠員補充のための選挙には、ディーターをはじめ帝国派にも共和国はにも属さないと公言している者が幾人も立候補している。四苦八苦しながらの新政府の政策を、クロスベルタイムズも比較的好意的に取り上げくれており、市民は前にも増して政治に興味を持っている。強い民意と、それを組み上げる仕組みが整えば、街は変わってゆくだろう。自分の仕事がその一助となるのならば、公僕として喜ばしいではないか。
(だから、これからもがんばろう。みんなと一緒に)
道程は険しいに違いない。だが、志を共にする仲間がいれば、どんな苦難も乗り越えられるはずだ。
 自らの意向とは関係なく配属された特務支援課。けれども、今はこの課の一員であるのを誇りに思っている。兄の遺志を継ぐなどと大それた名分を掲げるつもりはないが、組織の枠組みからはみ出した自分達のような存在が、クロスベルには必要だ。
 ありがとう、と言って貰える度、確かに人々のためになっているのだと実感できる。嬉しくなる。ロイドは今の仕事に確かなやりがいを感じていた。

 だが、空の女神は、ロイドに予想だにしない試練を与えた。

 「…………もう一度、お願いします」
帰還するなり呼び出しを受けたロイドは、デスクに座り、相変わらず紫煙をくゆらせている上司に言った。セルゲイはゆっくりと、先程口にした言葉をもう一度繰り返す。
「ロイド・バニングス。お前に捜査一課への異動辞令が出ている」
 ロイドは目を白黒させた。セルゲイは放任主義で適当な部分もあるが、嘘は吐かない。彼は言えないことは喋らない。だからこの話は事実なのだろう。それでも俄かには信じ難く、ロイドは他人のもののようにぎこちない唇を動かして尋ねた。
「どうして、俺が」
セルゲイは煙草を灰皿に押し付け、苦虫を噛み潰したような顔をする
「まぁ、言ってしまえば、客寄せパンダだ」
「はぁ」
いまいち深刻さの感じられない例えに頷くと、彼は益々眉根を寄せた。こんなにも厳しい顔をするセルゲイを見たのは、あの夜以来だ。
 「お前がどう評価されているか、知ってるか? 対内的には、あのガイ・バニングスの弟で、途絶えていた遊撃士協会との架け橋となったホープ。黒月や、風の剣聖からも一目置かれる存在。対外的には、困った時に助けてくれるやさしいお兄さん」
前半と後半の差が激しい気がするが、ロイドは黙って続きを待つ。
「そんな奴が、クロスベルの危機を救った。クロスベル・タイムズでも称賛され、市長から勲章まで授与されている。さて、何も知らされていない市民は、お前のことをどう思う? 答えは――『英雄』だ。そして、上は、英雄を欲しがっている」
「ちょ、ちょっと待ってください! 俺は確かに街の危機を救ったかもしれませんけど、それは、ランディやエリィ、ティオ、課長やダドリーさん、アリオスさんや、エステルにヨシュア…色んな人の助けがあったからです! 俺だけが英雄な訳じゃない!!」
過分な評価にロイドは慌てて訂正を入れる。謙遜ではなく本心だ。事件を振り返って得られるのは、どちらかというと達成感よりも、己の未熟さや至らなさに対する反省の方が強い。あの時、自分一人では何もできなかったし、誰も助けられなかった。そんな自分だけが称えられるのはおかしい。
 セルゲイは分かっているとばかりに頷く。
「俺の意見じゃない、一般的な市民の見解だ。実際、一番目につく所で動いていたのはお前らなんだから。言っただろ、客寄せだって。お偉いさん方は、今のボロボロな組織から目を逸らすために、分かりやすいヒーローが欲しいんだよ。お前が昇進して、犯罪撲滅のためにがんばってます、ってアピールでもしときゃ、善良な市民の何割は大人しくなるだろ。それが狙いだ」
「っ…!」
 一課への異動は昇進だが、ロイドの捜査官としての能力が認められた訳ではないのだ。腹の底からふつふつと、怒りと悲しみが沸き上がってくる。セルゲイは更に続ける。
「まぁ、マフィアや外国のスパイにそんなハリボテは通用しないだろうがな。だが、あいつらは、お前がマルコーニのリストを押さえたのを知っている。それがたとえ偶然であっても、お前の嗅覚に脅威を感じている。だから、お前の存在自体が多少の抑止力になる。…正直、俺は納得してないがな。折角ここまで育てた支援課から核を引き抜きなんて、勝手すぎるとぶん殴ってやりたいところだ」
 セルゲイは新しい煙草に火を点けると、不味そうに吸い、煙を吐き出した。
「差別するつもりじゃないが、ランディは駄目だ。あいつの過去が公になったら不味い。エリィはマクダエル市長の孫娘って時点で議会を刺激しちまうし、ティオは財団からの出向。俺はヒーローに仕立て上げるには年を食いすぎているし、ダドリーは既に一課として顔が割れてる。っていう大人の事情で、お前に白羽の矢が立った訳だ」
 ロイドは手足が急速に冷えてゆくのを感じた。ロイドを支援課にお払い箱にしておきながら、勝手な都合で呼び戻し、スケープゴートに仕立て上げるなど、身勝手すぎる。組織に属する以上、命令には従わなければならないが、上層部の傲慢さに嫌悪感を覚えずにはいられなかった。
 握り拳を震わせているロイドに、セルゲイが幾分柔らかい声で言う。
「ロイド。お前は少し、潔癖すぎる。視点を変えて考えてみろ。支援課も一課も、このクロスベルを守っていることには変わりない。お前が支援課の仕事にやりがいを感じているのは分かるし、俺も立案者として嬉しいさ。だが、もし警察自体が倒れたら、支援課だけじゃあ街を守れない」
「……」
 言われずとも、ロイドとて支援課の微妙な立ち位置を理解している。一課が水際で凶悪犯を押さえ、二課が企業犯罪を牽制し、他の課もそれぞれの職務を全うした上で、まなかい切れない仕事が支援課に回って来るのだ。自分達だけではこの広大なクロスベルを守り切ることなど到底できない。
 あの夜のように、至る所が損壊し、火の手が上がっている街。血を流し、地面に倒れ伏す大切な人々――最悪の事態を想像してしまい、ロイドは身を震わせた。この街を辛うじて支えている秩序がなくなってしまったら、あちこちに蒔かれている犯罪の芽があっという間に顔を出し、咲き誇るだろう。絶対数の少ない遊撃士だけでは治安の悪化を食い止められない。
 つい、とセルゲイが窓の外へ視線を向けた。支援課のビルは広場から数段低い場所に立っているため、ガラスの向こうは壁しかないが、それでも午後の麗らかな光が差し込んでいる。時折聞こえてくる子供の笑い声や、往来を通る車のクラクション。それらをいとおしそうに、満足そうにセルゲイは受け止めている。この街の「日常」を愛する彼は、それが簡単に壊れてしまうのを危惧しているのだ。
 セルゲイは首を巡らせて、しっかりとロイドの目を見据え、問う。
「お前の目指すものは、何だ?」
答えようとして、しかしロイドは口籠る。平和、と言えば耳触りは良いが、他人に聞かせるにはあまりにも漠然としすぎている気がした。セルゲイははっきりと語る。
「街の平和、仲間や友人の安全、ガイの死の真相、答えは色々あるだろう。そして、目的を達するための手段も一つじゃない。ここでしかできないこともあれば、ここではできないこともある。もう一度、自分が何をしたいのか、見つめ直してみろ」
 あまりにも難しい課題だった。思考の海に沈み始めたロイドの耳に、セルゲイの低い声が微かに届く。
「ここまで脅しておいて何だが、断ることもできる。お前のやりたいことが支援課で叶えられるなら、今まで通り住民のために体を張れ。しがらみは一切気にするな。だが、この状況下で、いつまでウチが活動を続けられるか分からないっていうのは、正直に言っておく。真っ先に切られるのは弱小部署からだからな」
 ロイドはのろのろと顔を上げ、父親に近い年齢の男を見た。彼は皮肉を織り交ぜながらも客観的な意見を言うだけで、強制も、引き止めもしない。自分で決めろ、と言っているのだ。
(課長は、いつもそうだ)
回っていない頭でも、ロイドが断れば上司であるセルゲイの立場が悪くなるのが想像できる。それでも、彼はロイドに決定権を残してくれた。彼の配慮を無駄にしないためにも、よく考えて答えを出したい。ロイドはからからに乾いた喉を震わせ、声を発した。
「少し、時間をもらえませんか」
「ああ。急かして悪いが、今週の金曜までに答えを聞かせてくれ。疑問があればいつでも聞きに来い。一課の業務内容だったら、ダドリーの奴に聞いてもいいぞ。っと、俺から皆に言っておくから、今週は緊急以外の支援要請には出なくていい」
今日は月曜日だ。もし異動が決まったら、もう仲間達とは一緒に仕事ができないかもしれない。考える時間は欲しいが、少しでも皆と一緒にいたくて、ロイドは首を横に振った。
「いえ、仕事は、いつも通りやらせてください」
「そうか。好きにしろ。まぁ、思いつめて無理だけはするなよ。話は以上だ」
 退室の許可を貰い、ロイドはふらふらと覚束ない足取りで部屋を出た。ぱたん、とドアの締まる音がやけに大きく聞こえ、締め出されたような不安な気分になった。
(俺は、どうしたら、いいんだろう)
頭の中は混乱を極めている。正直、まだ自分が当事者なのだという実感は沸かないが、決断を迫られている緊迫感だけはやけにはっきりしていた。
 「お、帰ってたのか。おつかれ」
憩いの場としても使われている食卓で、雑誌を読んでいたランディが声を掛けてくる。自分達が話し込んでいるうちに帰ってきたのだろう。エリィとティオの姿はまだない。キーアはツァイトと共に遊びに行ってしまったようだった。ロイドは慌てて笑顔を作り、平静を装う。
「おかえり。ランディも早かったんだな」
「まーな。…お前、何かあったのか?」
ランディはわざわざ立ち上がると、長い髪とコートの裾を揺らし、ロイドの正面に立つ。宝石のように美しい碧の双眸に見詰められ、ロイドは息を詰めた。濁った心の内を見透かされてしまいそうだ。
(駄目だ)
セルゲイは、他言無用とは言わなかった。つまり、誰かに相談しても構わないということだ。ロイドにとって誰よりも信頼できる仲間で、兄のように慕っているランディなら、きっと親身に話を聞いてくれる。だが、今やさしくされたら、寄りかかってしまいそうで怖かった。対等でいたいから、甘えすぎたくないのだ。
 だからロイドは笑みの仮面を顔に張り付ける。
「なんでも、ない」
「なら、いいけどよ。無理すんなよ」
ランディは、ぽん、と頭に手を置いただけで、それ以上は言及してこない。ありがたいのに寂しくて、ロイドは何故だか無性に泣きたくなった。




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